くすりの話し
薬は作用も副作用もある物質ですが人類の知恵の結晶でもありますので必要に
際しては有効に利用する事が人生にとって賢明でしょう。日頃しばしばご質問を
受ける事柄についてメモに纏めてみました。ご参考にして頂ければ幸いです。
(回答者:日下医院院長 日下忠文)
Ⅰくすり一般について
Q:くすりの飲みかたについて説明して下さい
食後水で服用すると胃をあらしません。胃の過敏な人は粘膜を保護する薬を一緒にもらう とよいでしょう。
Q:服用の時間間隔について教えて下さい
薬は一定量からだの中に溶けてないと作用しません(有効血中濃度)通常は毎食後、6時 間毎等と時間をきちんと決めて服用すると有効血中濃度が保たれます。
Q:水以外のもので服用しても良いでしょうか?
抗生物質によっては牛乳中のカルシウム成分のため薬が吸収されにくくなるものがありま す。ジュース類も高血圧や狭心症に使われるカルシウム拮抗薬では作用が強まる事があり ます。コーヒー、紅茶、お茶のカフェインは綜合感冒薬中のカフェインと重なって多く取 りすぎるとイライラ、頭痛、不眠の原因となることがあります。 アルコールは多くの薬と相互作用を起こしやすく、又、薬の肝臓での代謝が抑制され、薬 の効き目が強くなる危険があります。
Q:妊娠中に服用して奇形を起こしやすい薬について教えて下さい
受精18日以内でも危険なもの
風疹ワクチン
金チオリンゴ酸ナトリウム
コルヒチン
抗癌剤等
妊娠4〜16週のうち、特に10週頃までの器官形成期に注意を要するもの。但し、特殊 薬剤を除いて催奇形性は統計上有意差は殆ど無い。
ビタミンA大量(25,000IU)服用は中枢神経異常を生ずる
抗てんかん薬 ミノアレビアチン、アレビアチン、フェノバール、テグレトール、 デパケン
抗癌剤
風疹ワクチン
合成黄体ホルモン剤
コルヒチン
リーマス
大麻
ワーファリン
アルコール
ジエチルスチルベストロール
Q:胎児毒性の副作用が問題になる薬を教えて下さい
カナマイシン、ストレプトマイシン……聴覚障害
アイロゾン……母体の肝機能障害
テトラサイクリン……胎児の歯、骨の色素沈着、母体の肝機能障害
クロロマイセチン……新生児グレイ症候群
サルファ剤……新生児高ビリルビン血症
アンジオテンシン変換酵素阻害薬……羊水量減少
消炎鎮痛薬……胎児動脈管閉鎖、腎障害
ワクチン:麻疹、風疹、流行性耳下炎……妊娠中の接種は禁忌
Q:授乳中の副作用が問題になる薬について教えて下さい
殆どのくすりは母乳にごく微量ですが移行しますので妊娠中と同様の注意は必要ですが、断 乳を要する事は殆どありません。
Ⅱ精神安定剤
(不安、緊張をとり、勘繰りをなくし、幻覚妄想をなくす薬)
Q:精神安定剤で「ばか」になることはありませんか
よく受ける質問ですが精神安定剤で知能が低下する事はありません。そのような事を主張し ている書物やマスコミがありましたら教えて下さい。
Q:精神安定剤の習慣性について教えて下さい
一般的には現在の精神安定剤を通常量使用していて習慣性がついてしまう事は殆どありま せん。
Q:依存性についても教えて下さい
精神安定剤の依存性も医師の治療監督下で使用している場合は殆ど依存性に陥る事はあり ません。但し、依存につきましては個人的な体質、心理傾向が強く関係致します。
Q:精神安定剤服用中は就業が禁止されている職業はありますか
禁止されている職業はありません。但し、眠気の発生、注意散漫、運動神経反射低下、筋肉 弛緩、平衡感覚不安定等の症状が発生することがありますのでそれらに関係する職業では十 分な注意が必要です。
Q:精神安定剤には種類がありますか?
精神安定剤は百種類以上あります。強いもの、弱いもの、短時間型、長時間型、又、不安緊 張によいもの、自律神経のコントロールによいもの、幻覚妄想によいもの等です。
Q:精神安定剤と精神療法の関係について教えて下さい
過度のストレスで神経が弱ったときなどに精神安定剤で神経の回復を図るわけですが、スト レスは非常に個人差があります。上司に怒られてもたった一人だけ精神的に参ってしまう事 はよくありますように、物事の受け止め方、発想の仕方、多次元的な物の見方などの要素が 関係します。従って、ストレスをストレスではないような受け止め方、発想の転換が必要に なりますが、この自己洞察を得るプロセスを援助してもらう事を精神療法又はカウンセリン グといいます。従って精神療法をうまく受けるため、又は一時的な精神の回復を得るために 精神安定剤を用います。精神安定剤の使用と自己洞察(精神療法、カウンセリング)は切り 離せませんし、自己洞察こそが精神の安定の基本です。
Ⅲ抗うつ薬
(喜怒哀楽の感情を調節する薬)
Q:抗うつ薬の服用の仕方について話して下さい
抗うつ薬は7〜10日服用しないと効果がはっきりしません。従って医師の指示に従って持 続的に服用する必要があります。
Q:頓服はありますか
抗うつ薬は頓服的に服用して効果のあるものはありません。
Q:うつ状態が治ったらすぐ服用をやめてよろしいですか
抗うつ薬でうつ状態が改善しても薬によるカラ元気ですのでしばらくそのまま続けて服用 し徐々に減量して終了にもってゆきます。
Q:抗うつ薬服用中に注意する事はありますか
薬でカラ元気が出ているときにやりすぎない事です。又、カラ元気が出ているときは疲れや すかったり、根気が続かなかったりしますので、本物の元気が出てくるまで活動を半分位に セーブしているとよいでしょう。
Q:うつ状態が治ったあとに注意する事がありますか
うつ病は脳内の病的なプロセスによる事が多いのですが、疲れを蓄積しない事が大切です。 即ち、疲れを翌日に持ち越さない事、少なくとも先週の疲れは絶対に持ち越さない事です。
Q:うつ病は再発しますか
うつ病は再発の可能性の高い病気です。しかしながら予兆の様なものがかなりある事が多い ので毎朝起床前に30秒間チェックすればかなり防げるか、軽く済ませる事が可能です。 即ち、疲れが残っていないか、不眠傾向になっていないか、意欲が何となく低下していない か、感動が薄れていないか、人と会った後で疲れが残らないか等です。
Ⅳ睡眠薬について
Q:睡眠薬はやめられなくなりませんか
30年位前に使われていたバルビツール酸系の睡眠薬はやめられなくなることがありまし たが、当医院で現在使用しているベンゾジアゼピン系の睡眠薬では習慣性、依存性は殆ど認 められません。
Q:睡眠薬の副作用について教えて下さい
人によりますが、眠気、ふらつき、めまい、筋弛緩作用、一過性健忘等が出る事があります。 アルコールと一緒に飲むと一過性健忘が出やすくなったり、薬効に変化を生じたり致します。
Q:睡眠薬は毎日飲むと効果が薄れますか
当医院で現在使用しているベンゾジアゼピン系の睡眠薬では長期服用でも薬効が変化する ことはありません。
Q:睡眠薬の代わりにアルコールの使用はどうでしょうか
アルコールは不安を抑制したり、精神の興奮を鎮静させる作用があり、うまく使えば大変有 効な物質といえます。但し、依存性があり、増量傾向があり、適量の維持がうまく行かない 場合があります。アルコールは基本的には中枢神経麻痺剤ですのでほろ酔い程度で既に毒と して作用しております。現代では一般的には睡眠薬の使用を医師は薦めています。
Q:睡眠薬を飲むとボケるといわれますが
睡眠薬を長期に服用していてボケたり、アルツハイマー病になったりする事はまったくあ りません。
Q:睡眠薬はいつやめたら良いでしょう
個人差がありますが必要な量を必要な期間服用して特に問題はありません「必要最小維持 量」の概念で医師の指示に従い徐々に弱い薬の少量に変えてから服薬をやめて下さい。 眠れるようになって急にやめると逆に不眠になることがあります。(リバウンド現象) 高血圧の治療を続けながら天寿をまっとうする方が居られるように睡眠薬を服用しながら 天寿をまっとうすることは当たり前に出来ます。
Q:不眠症には総て睡眠薬を使うものですか
不眠症には原因も種類も様々なものがありますので色々の薬を使います。不安、ストレスか らの不眠症には精神安定剤が有効ですし、うつ病の不眠には抗うつ薬である程度うつ状態を 改善しないと不眠は治りません。自律神経の不安定な方には自律神経安定剤を処方致します。
Q:睡眠薬には種類がありますか
効果の強いもの、弱いもの、持続時間が長いもの、中くらいなもの、短いもの、有効血中濃 度がすぐ上昇するもの、なかなか上昇しないもの等様々なものがあります。
Q:睡眠薬は何時頃服用すればよいのでしょうか
その人個人の睡眠―覚醒リズムにもよりますが有効血中濃度の持続時間も充分考慮しなけ ればなりません。例えば、有効血中濃度8時間の薬を服用して朝6時に気持ちよく目覚める ためには少なくとも10時には服用しなければなりません。一般には10時すぎに服用する とうまく薬が効かなかったり、翌朝目覚めて薬の効果が残っていて不快になったり致します。