脳卒中の危険因子と予防 |
脳血管疾患とは?
「脳血管障害」とは脳に栄養を運ぶ血管の障害により発症する病気の総称で、専門的には「脳血管疾患」と呼ばれています。慢性的な脳血流の低下により徐々に進行する「痴呆症」なども広い意味では脳血管疾患に含まれますが、ここでは脳血管疾患の代表格である「脳卒中」を取り上げ、その危険因子と予防法を紹介します。
現在脳卒中は、くも膜下出血・脳内出血・脳梗塞の3つのタイプに分類されています。頭蓋内の比較的太い血管の分岐部にできた血管のコブ(動脈瘤)が破裂し、くも膜下腔という場所に出血したものが「くも膜下出血」です。
また、脳実質内に出血したものが「脳内出血」で、ごく細い血管に形成された微少動脈瘤の破裂が原因であると考えられています。以前「脳溢血」と診断されていたものは、現在のくも膜下出血と脳内出血をあわせたものと考えられます。
これに対し、何らかの原因により脳の血管がつまって、その領域の神経細胞が死んでしまった場合「脳梗塞」と診断されます。動脈硬化などにより脳の血管そのものが狭くなって発症することもありますし(脳血栓症)、心臓や頚部内頚動脈など離れた場所から血栓が飛んできてつまってしまう場合(脳塞栓症)もあります。以前「脳軟化」と呼ばれていたものは、現在の脳梗塞に当たります。
以上のように、3つのタイプは病理学的には明らかに異なる疾患です。しかし現在のようにCTスキャンやMRIを利用できるようになる以前には、臨床症状だけで区別することは難しく、まとめて脳卒中と呼ばれていました。脳卒中の「卒」は「突然」という意味で、多くの場合その前触れとなる症状(前駆症状)はなく、突然発症するのが脳卒中の 特徴です。
脳卒中の死亡率は?
約30年前、脳卒中は国民病と呼ばれ、死因の第1位を占めていました。その後脳卒中による死亡は徐々に減少しましたが、最近でも悪性新生物(癌)に次いで死因の第
2位を占め(グラフ1)年間約15万人が脳卒中により亡くなっています。脳卒中の死亡率が減少してきたのは喜ばしいことですが、脳卒中の発症そのものは減少していません。さらに脳卒中により医療機関にかかっている人の割合(受療率)は、年々増加しています。(グラフ2)
これは医療の進歩により脳卒中になっても死亡する人が減少してきたためですが、逆に寝たきり状態や運動麻痺などを残して生活している人の割合は増加しており、現在では脳梗塞が半数以上を占めています。
脳卒中は遺伝しますが?
脳卒中の発症には、ある程度家族性があることが知られています。グラフ3は最近私たちが調査した結果ですが、肉親に脳卒中の人がいた場合、どのくらい脳卒中にかかりやすいかを「相対リスク」という数字で表しています。一口に「脳卒中の家族歴がある」と言っても、脳卒中がどのタイプであったかによって、相対リスクはかなり異なります。
くも膜下出血は、脳卒中の中では最も遺伝性の強い疾患で「くも膜下出血の家族歴がある(両親または兄弟にくも膜下出血になった人がいる)」場合、「家族歴がない」人に比べて9倍もくも膜下出血になりやすいことが分かります。
くも膜下出血の人が家族にいる場合には、脳ドックなどでくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤がないか検査してもらうとよいでしょう。
脳内出血の場合は約
1.9倍脳内出血にかかりやすいことになり注意が必要です。脳内出血の家族歴は、高血圧や食生活と関係しているという結果がありました。血圧のコントロールや食生活に気をつけることにより、脳内出血は予防することができます。また脳梗塞では、家族歴はその発症にあまり重要ではありませんでした。
血圧のコントロールは何を目安にしたらよいですか?
高血圧は全てのタイプの脳卒中の危険因子です。従って血圧をコントロールすることが、脳卒中予防の第一歩となります。140/90以下とされています。しかし血圧が高いからと言って急速に血圧を下げると、かえって具合が悪くなってしまうことがあります。特に長年高血圧を放置していた人は、脳の血管が高い状態になれてしまっていて、血圧が低下すると脳血流も低下してしますことがあります。降圧剤を飲み始めたところ、ふらふらするなどの自覚症状がある場合には、もう少し弱い降圧剤に変更する必要があります。半年以上かけてゆっくり理想の血圧に持って行くことが重要です。
できれば家庭でも血圧を測ってください。病院では多少なりとも緊張しているため、普段より高い血圧を示すことが少なくありません。血圧は常に変動していますので、あまり神経質になる必要はありませんが、普段生活しているときの血圧をしっていることは重要です。
脳卒中と飲酒との関係は?
元気に活躍されているお年寄りの中には、毎晩晩酌を楽しまれている方も多いことと思います。お酒は「百薬の長」とも言われ、適量ならば脳梗塞を予防する効果があることが知られています。しかし毎日2合以上の飲酒は、全て脳卒中の危険因子となります。
されに私たちの調査では、毎日
2合以上の飲酒を続けると脳萎縮が進行し、脳の高次機能が低下することが分かってきました。晩酌は1日1合が適量でしょう。
脳卒中と喫煙の関係は?
喫煙は脳卒中に関する限り、よいことは全くありません。しかも喫煙量に比例して、脳卒中のリスクは高まります。喫煙開始年齢の低い人ほど、
1日の本数が多い人ほど、リスクは高いと言えます。されに小児期に父親が喫煙していた人は、脳卒中のリスクが高くなると言う報告もあるくらいです。「もう少し年をとったら禁煙しよう。」という考え方は、お勧めできません。
担当:久保田 基夫