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脳ドックの成績概要のご報告

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日下医院開設20周年記念事業として、1992年3月より開始いたしましたクモ膜下出血検診システム(脳ドッグ)は、お蔭様で、2,500名以上のご利用をいただき、十分な成果を挙げております。
 また、日本脳ドッグ学会には、設立当初より参加して、学会発表も毎年行なっております。いわゆる脳ドッグといわれるものは、全国で沢山の施設で実施されておりますが、使用される機種、その使用方法、その判読能力等によって成績は、大きなばらつきがあります。当医院の成績は、学会でもトップクラスと自負しております。 ここに、今迄の脳ドッグの成績の概要を申し上げます。


1.脳動脈瘤について

クモ膜下出血の大部分の原因であります脳動脈瘤は、1.4%に認められます。クモ膜下出血が発症しますと、死亡率は50%、後遺症を残すもの50%であり、無事生還するものは、結局25%です。発症前の治療は死亡例もなく、大きな後遺症も残すことなく治癒しております。 又、脳動脈瘤の遺伝性は、二親等で20%以上といわれておりますので、脳動脈瘤のみつかった方のご家族には、是非とも検査をおすすめいたします。

2.無症候性脳梗塞について

MRIが脳の診断に導入されてから、症状を出さない小さな脳梗塞、いわゆる無症候性脳梗塞が、沢山みつかるようになりました。最近、無症候性脳梗塞には様々な病態があることが、分かってまいりました。当医院の成績は以下の表のようになります。

    

       
「各病変の出現頻度」
lacunaleukoaraiosisetat crible
30才代0.42.447.44
40才代3.529.262.60
50才代8.757.383.00
60才代16.881.789.80
合 計6.842.572.10
     
lacuna:直径3mm以上の境界明瞭な穿通枝領域の病変:本物の梗塞で治療の検討対象
leukoaraiosis:斑状―地図状のやや境界不明瞭な白質病変で種々の病理的変化が含まれている
etat crible:直径2㎜以下の境界明瞭な穿通枝領域の病変で、血管周囲腔の拡大
                              
上記①②③はまだ日本語訳も決まっていないものですが、これからの脳ドッグでは、
これらの鑑別が必要となります。殊に、治療検討対象となるラクナが平均で6.8%
に認めれれますので、40歳の誕生日からの脳ドッグをおすすめ致します。又、正常健
康人に比較して、高血圧症、高脂血症(総コレステロ−ル、中性脂肪が高い)、糖尿病、
不整脈等の成人病の疾患のある方は有意に発生率が高くなりますので、一層の予防的
心構えが必要です。当然のことながら、成人病のある方のラクナの治療は基礎疾患で
ある成人病の治療が優先致します。

3.高次脳機能障害について

いわゆる痴呆の早期発見につきましては、まだ困難なものがありますが、幾つかの貴重なデ−タが集まっております。単変量解析ではlacuna,leukoaraiosis,脳萎縮、中大脳動脈狭窄が有意な危険因子でしたが、多変量解析では殊にleukoaraiosis,中大脳動脈狭窄が年齢を補正しても、強い危険因子でした。まだまだ未知の領域が広いのは事実ですが、問診を含めた脳ドッグが参考になるのは、これも事実です。

4.脳腫瘍

血管腫、髄膜腫、脳下垂体腫瘍等の良性腫瘍が症状を出さないうちに早期に発見されております。

5.その他の脳病変

クモ膜のう胞、水頭症、脳萎縮、奇形等が無症状又は軽度の頭痛などで発見されております。又、1日2合以上の飲酒は、脳萎縮を有意に増加させます。

6.その他

眼窩内腫瘍、副鼻腔炎、副鼻腔内良性腫瘍、中耳炎後状態など眼・耳・鼻の疾患もかなりの頻度で発見されております。
以上、今迄2,500例を越える脳ドッグを経験させていただきましたが、その成績をみますと、当医院の脳ドッグは人間ドッグ、肺癌検診等と比較しても極めて有用なものと考えております。                    
                                              
1997年4月10日
医療法人社団 望葉会 日下医院
理事長 日下 忠文